富山地方裁判所 昭和45年(行ウ)1号 判決
原告
堀井竟
外三名
右四名訴訟代理人
近藤忠孝
外二名
被告
富山県
右代表者
中田幸吉
右訴訟代理人
俵正市
外九名
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
(原告ら)
被告は原告堀井竟に対し金三、六四五円、原告野村博之に対し金三、五〇九円、原告永井精二に対し金四、一六〇円、原告戸口拾に対し金三、二三三円およびこれらに対する昭和四四年一二月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行の宣言。
(被告)
一、本案前の申立
原告らの訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
二、本案に対する申立
主文と同旨。
第二、当事者の主張
(原告らの請求の原因)
一、原告堀井竟は高岡市立南星中学校、原告野村博之は同西部中学校、原告永井精二、同戸口拾は同志貴野中学校の各教諭であり、いずれも被告から給与の支払いを受けている。
二、被告は昭和四四年一二月五日勤勉手当として、原告堀井に対し三三、四一二円、原告野村に対し三二、一六九円、原告永井に対し三八、一三八円、原告戸口に対し二九、六三九円をそれぞれ支給した。
三、ところで勤勉手当額算出の根拠は次のとおりである。
(一) 地方公務員法二四条六項に基づいて富山県一般職の職員等の給与に関する条例(以下給与条例という)が定められ、勤勉手当の額については右条例二三条二項に「職員がそれぞれその基準日現在において受けるべき給料の月額およびこれに対する調整手当の月額の合計額に任命権者が人事委員会の定める基準に従つて定める割合を乗じて得た額とする」旨規定されている。しかして、富山県一般職の職員等の給与に関する規則(以下給与規則という)三二条四項は右条例二三条二項に規定する割合について、職員の勤務期間による割合(期間率)に職員の勤務成績による割合(成績率)を乗じて得たものとする旨規定し、同規則同条一〇項は成績率の範囲として(1)三月一日一〇〇分の三〇以上一〇〇分の七五以下(2)六月一日および一二月一日一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下と規定している。
(二) そこで富山県教育委員会(以下県教委という)は右委任に基づいて、昭和四四年一二月五日支給の勤勉手当に関し、同年一一月中旬ごろ成績率を次のように決定した。
(ア) 良好な成績で勤務した場合
一〇〇分の六一
(イ) 書面訓告を受けた場合
一〇〇分の五五
(ウ) 戒告を受けた場合 一〇〇分の五〇
(エ) 減給を受けた場合 一〇〇分の四五
(オ) 停職を受けた場合 一〇〇分の四〇
そして同月一五日、課長、教育機関および出先機関の長、県立学校長へその旨通知をし、これを受けた高岡教育事務所長は管内小中学校長へ更に同旨の通知をし、これによつて勤勉手当の額を算出すべきことを要請して、同月一七日給与規則三三条に基づいて富山県人事委員会に対し右成績率を定めた旨報告した。
<後略>
理由
第一、まず被告の本案前の抗弁について判断する。
被告は、勤勉手当の支給は行政庁の処分であるから、原告らがその違法性を争うには地方自治法二〇六条または地方公務員法四九条の二に定める不服申立手続を経たうえ、処分庁を相手方とする処分取消の訴によるべきであるのに、原告らは右手続を経ず、また処分庁ではない被告を相手方として訴を提起した違法があると主張するので検討する。
まず、処分取消の訴の対象となるべき処分とは、行政庁が、その優越的地位に基づき、権力的な意思活動として行なう行為であつて、個人の法律上の地位ないし権利関係になんらかの具体的影響を与えるような性質の行為であると解すべきである。しがつて、その行為が行政庁の内部的な行為にすぎないか、行政庁の内部的な段階にとどまつていて、未だ外部に対して表示されていないような場合には、これによつて、私人の権利、利益が影響を受けることは原則として考えられないから、これをもつて取消訴訟の対象となる処分ということはできないというべきである。
これを本件についてみるに、勤勉手当算出の法的根拠および計算の基礎となる原告らの本俸および暫定手当の月額については当事者間に争いのないところ、右基準額に乗ぜられるべき期間率と成績率のうち、期間率は給与規則によつて客観的に定まつているが、成績率は右規則によつて任命権者に委任されているものであるから、任命権者の決定によつて初めて定まるべき性格のものである。しかして、この任命権者の成績率の決定は、本質的には内部的な決定にすぎず、これをもつて独立の処分ということはできないから、この内部的な決定に基づいて事実上なされた勤勉手当の支給についても、その処分性を認めることはできない。
そうすると、勤勉手当の支給は取消訴訟の対象となる処分とはなりえないものといわねばならず、そうである以上、取消訴訟を前提とする地方自治法および地方公務員法上の各不服申立手続を経るを要しないものというべきである。
原告らは本訴において、本来支給されるべきであるとする勤勉手当の額と現実に支給された額との差額の支払いを求めているものであることは、その主張自体から明らかである。このような場合には、抗告訴訟として右支給行為の効力を争うことはできず、公法上の法律関係に関する訴訟(行政事件訴訟法四条後段)として、争いある法律関係の一方の当事者たる本件被告を相手方とする、前記差額分の給付請求訴訟を提起すれば足るものと解する。
してみると、勤勉手当の支給が取消訴訟の対象となるべき処分であることを前提とする被告の主張はいずれも採用できず、本件原告らの訴を不適法とすべき何らの理由もない。
第二、すすんで本案について判断する。
一、原告堀井は高岡市立南星中学校、同野村は同西部中学校、同永井、同戸口は同志貴野中学校の各教諭であり、いずれも被告から給与の支払いを受けていること、被告は昭和四四年一二月五日に勤勉手当として原告堀井に金三三、四一二円、同野村に金三二、一六九円、同永井に金三八、一三八円、同戸口に金二九、六三九円をそれぞれ支給したこと、原告ら県費負担教職員に対する勤勉手当額算出の法的根拠が原告ら主張のとおりであり、県教委が前同日支給される勤勉手当に関し、同年一一月中旬頃、(ア)良好な成績で勤務した場合、一〇〇分の六一、(イ)書面訓告を受けた場合、一〇〇分の五五、(ウ)戒告を受けた場合、一〇〇分の五〇、(エ)減給を受けた場合、一〇〇分の四五、(オ)停職を受けた場合、一〇〇分の四〇、以上の五段階の成績率を定め、その旨管内の課長、教育機関、出先機関の長、県立学校長に通知するとともに、給与規則三三条に基づいて人事委員会へ報告をしこれを受けた高岡教育事務所長は同事務所管内の小中学校長へ同旨の通知をしたこと、原告らの勤勉手当額算出の根拠となる原告らの昭和四四年一二月一日現在の本俸および暫定手当が原告ら主張のとおりであるところ、原告らには前記成績率のうち(イ)一〇〇分の五五が適用され、前記のとおりの額が原告らに支給されたこと、以上の各事実については当事者間に争いがない。
二、ところで、原告らが昭和四四年一一月一日、県教委から書面訓告を受けたことについては当事者間に争いのないところ、被告は、原告らが書面訓告を受けたことに徴表される原告らの義務違反行為を考慮のうえ、原告らに対して前記一〇〇分の五五という成績率を適用したものである旨主張するのに対し、原告らは、書面訓告によつて経済的に不利益な結果を発生させてはならず、書面訓告を理由に成績率一〇〇分の五五を適用したことは違法である、仮に書面訓告を理由に右成績率を適用することが違法でないとしても、そもそも本件書面訓告は無効であるから、無効な書面訓告を前提とする右成績率の適用は違法である旨抗争するので、以下この点につき検討する。
(一) 書面訓告を理由に成績率一〇〇分の五五を適用したことは違法であるとの主張について判断する。
原告ら公立学校の教員は地方公務員たる身分を有し(教育公務員特例法三条)、地方公務員法の適用あるところ、同法二七条三項は、職員は同法で定める事由によるのでなければ、懲戒処分を受けることがない旨規定し、同法二九条は懲戒処分として戒告、減給、停職、免職の四処分を規定し、訓告については定めるところがない。懲戒処分は、公務員法上の秩序を維持するうえで、その必要性が認められるものであるけれども、他方、処分を受ける個人はそのため経済的、身分的不利益を蒙り、あるいはその名誉信用を害されることを考慮すると、個人の権利を保障するため、懲戒処分ないしはそれに準ずるような不利益処分は、法令にその根拠を有するものでなければならないというべきである。したがつて、法令に根拠のない事実上の行為たる訓告によつて、懲戒処分と同視しうるような実質的内容をもつた不利益を課すことは許されないというべきである。
ところで、本件書面訓告が法令に明記された懲戒処分ではなく、事実上の注意としてなされたものであることは当事者間に争いがない。しかし、公務員に対する訓告は、これによつて昇給延伸の理由となり又は勤勉手当の支給に当り勤務成績評価の対象とされても、直接法律上および経済上の不利益を課したものではない。一般に公務員に支給される勤勉手当が生活給的色彩を有することは否定できないが、各人の勤務成績に応じてその支給額を異にする能率給たる性質をも有するものであることを考慮すると、任命権者は、その裁量の範囲内において、職員が書面訓告を受けたことを勤務成績判定の一資料として給与計算上の措置をとることも許されないものではないと考える。したがつて、本件書面訓告の存在が原告らに対する勤勉手当の成績率評価の対象とされた一事をもつて、直接経済的不利益を課した違法なものとは到底いえない。よつて、この点に関する原告らの主張は理由がない。
(二) 次に、本件書面訓告は違法な年休不承認を理由とするものであるが、右違法な年休不承認を前提とする書面訓告は無効であるから、無効な書面訓告を原因とする前記成績率の適用は違法であるとの主張について判断する。
1 <証拠>によれば、原告らに対する書面訓告の理由はいずれも「昭和四四年一〇月八日にかかる年休が不承認となつたにもかかわらず、同日午後、上司の命に従わず、勤務時間中に職場を離れた」ことにあることが認められる。しかして、<証拠>を総合すると、原告らに対して前記書面訓告がなされるに至つた経緯は次のとおりであることが認められる。
(1) 原告ら所属の県教組は、昭和四四年九月中旬、同年一〇月八日に県教組臨時大会を開催することを決定し、同年九月二二日その招集状を各学校分会長、各学校分会代議員、県教組役員に発送した。右大会の議案は、1、第十次賃金闘争推進に関する件、2、組合基金繰出しに関する件その他であつた。ところで、一〇月八日は水曜日であり、大会は午後二時開催の予定であつたので、組合では県教委との間の摩擦を避ける最も平穏な方法として、各代議員(大会の代議員で各分会で年度毎に選出され、その旨県教組に通知される)に対し、年休をとつて出席するように指導した。
(2) ところが、一〇月六日頃、高岡市内の各学校でほぼいつせいに、学校長が「中学校では、当日一名以上の出張がある場合、一〇月八日に予定されている県教組臨時大会出席のための代議員の休暇は認められない。組合役員の出席も、その出席のための休暇も認められない。」旨言明し、「小学校では、一名ならば出席のための休暇を認めてもよいが、それ以外は認められない」旨教職員に伝えられた。そこで、県教組高岡支部では同日直ちに高岡市教委と交渉した結果、同月四日高岡管内の教育長会議が開かれた際、川西高岡教育事務所長から各教育長に対して、一〇月八日の休暇について前記のような取扱いをすべき旨の指示がなされたことが明らかになつた。そのため市教組は一〇月八日の休暇を認めてもらいたい旨を繰り返し要請したところ、一〇月七日に至り、各組合執行委員に対し個別に執行委員だけならば、大会へ出席してもよいとの伝達がなされた。しかし、これでは、組合員数に応じた代議員がすべて含まれることにならないので、県教組高岡支部沖田執行委員長、氏家書記長、北上執行委員および県教組安達執行委員の四名が、同日午後三時頃、高岡教育事務所に赴き、再度交渉したが要領を得ないので、更に同日午後五時頃、右のうち沖田委員長を除く三名が高岡市教委へ赴き、朴木学校課長と面会した結果、同課長は休暇承認は各学校長の裁量によるのであるから、誤解があつてはいけないとして、各学校長に電話で確認することを約したので、交渉に当つた組合役員は代議員の年休を認めてほしいとの組合側の要請が容れられたものと考え、その日の交渉を終つた。
(3) そこで、原告ら代議員は、右同日および同日受理されなかつたものについては大会当日の朝、再度年休の届出を各学校長に対してしたにもかかわらず、各学校長は年休の承認を与えなかつた。市教組は前日の市教委との了解と異なると考えたので、八日午前中高岡市立高陵中学校で開かれていた高岡市内校長会の会議場へ電話をして、代議員全員の休暇を認めてほしいと申し入れたが、代議員一名は認めるが他は認めないなど結論が出なかつたので、大会の開始時刻が切迫していたこともあつて、原告ら四名および他の一名は各所属学校長の年休の承認を得られないまま組合大会に出席し、職場を離れる結果となつた。大会には高岡市教組の代議員五四名の出席予定者のうち二四名の欠席者があり、他管内に比し、高岡管内の欠席者の多いことが認められた。
(4) そして、翌九日、年休の承認を得ずに大会に出席した原告ら四名および他の一名は各学校長に呼出され、八日の動静について報告を求められ、学校によつては関係学年の教諭まで事情を聴収されるという事態が発生した。そこで高岡市教組は急拠市教委との間で右事態について交渉を行つたが、これには、市教委側から伊勢教育長、朴木課長の二名、教組側から県教組長谷委員長、林調査部長、安達執行委員、市教組沖田執行委員長、氏原書記長、中村副委員長の六名が出席した。その結果、伊勢教育長と長谷委員長との間で「県から示唆を受けてそれを指導と受けとり、学校運営上の問題としてひたすら下部へ指導したために組合の権利をおかすような結果になつたことは反省する。今後二度とこのようなことが起らないよう慎重に運びたい」との内容の確認書が交されたほか、口頭で、組合側では確認書の趣旨に則つてそれまでのことは白紙にすべきだとの要求をし、これに対して伊勢教育長は、努力する旨約束して右交渉は終つたのであるが、同日午後四時頃、同教育長から市教組に対し、電話で、事件は既に県の知るところとなつたので市教委の手には負えないが、確認書の趣旨に則して努力する旨伝えられた。
(5) ところが、同年一一月一日に至り、原告ら四名に対し前述の理由を付した書面訓告がなされたが、給料減額の措置はなされなかつた。
なお、原告らと同様、一〇月八日に校長の承認を得ずに年休を請求して、組合大会に出席した代議員織田某に対しては書面訓告がなされなかつた。
以上認定の各事実を左右するに足る証拠はない。
右事実によれば、原告らは組合代議員として昭和四四年一〇月八日開催の臨時組合大会に出席のため、組合の指導方針に従つて年休をとることとし、各所属学校長に年休を請求したにもかかわらず、各学校長ともこれを承認しなかつたので、原告らは承認を得ないまま休暇をとり、組合大会へ出席したところ、書面訓告を受けたものであるが、各学校長が、年休を不承認としたのは県教委からの示唆を受けた高岡教育事務所長および同市教育長らの指導によるものであつて、代議員たる教職員が組合大会へ出席するのを困難にしようとの意図に出たものであると推認できる。
2 そこで、原告らに対する右年休の不承認が違法か否かについて考察する。
(1) 地方公務員は、年休の関係においては地方公務員法五八条三項により労働基準法三九条の適用があるが、年休請求権の法的性質について、原告らは、形成権であるから使用者の承認を要しないと主張するのに対し、被告は、右は請求権であるから承認を要する旨主張するので、まずこの点について判断する。
労働基準法三九条一、二項は労働者が所定の期間、所定の割合以上の出勤率で継続勤務した場合、使用者は当該労働者に対し、所定の日数の有給休暇を与えるべきことを規定している。これは使用者に対し常に従属的立場にある労働者に、毎年休日以外に一定日数の有給の裏付けある休暇を与えることにより労働者が労働から解放され、心身の休養をとることにより労働力の維持培養を図ることを目的として使用者に休暇の付与義務を課したものであるということができる。しかして、同条三項は「使用者は有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。但し、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては他の時季にこれを与えることができる」旨規定しているが、本項の趣旨は、右一、二項の規定された趣旨に照すと、労働者がその労働から解放されるべき日は、まず労働者の意思に従つてこれを決定させるべきであるとの見地から年休日の指定権を労働者に与え、ただ事業の運営に当る使用者にとつて、労働者の休暇をいつにするかは重大な関心の存するところであるから、事業の正常な運営を妨げるような事由がある場合に限り労働者の指定した時季以外の別の時季を指定しうるとして、労働者の権利と使用者の利益との調整を図つたものと解すべきである。したがつて、右のような事由による使用者の拒否がない以上、年休は労働者の指定する時季に定まるものであつて、更に使用者の承認を得る必要はないものと考える。なお、事業の正常な運営を妨げる場合とは、使用者の自由な判断に委ねられるのではなく、客観的にみて事業の正常な運営を妨げるような事由が存するか否かによつて判断されるべきものと解する。
(2) ところで、地方公務員法五七条は、公立学校職員について、その職務および責任の特殊性から必要な場合には同法に対する特例を定めるべきことを規定しているところ、その特例法として定められた地方教育行政の組織および運営に関する法律四三条一項は、県費負担教職員はその服務について、市町村教育委員会の監督を受ける旨、同二項は県費負担教職員がその職務を遂行する際には、法令、県条例、当該市町村条例、規則、当該市町村教委の定める規則、規程に従う義務を有する旨定め、同条に基づいて定められた高岡市立学校職員服務規則一〇条一項は、職員の休暇について、「職員は休暇を得ようとするときは、あらかじめ、校長にあつては教育長の、その他の職員にあつては校長の承認を受けなければならない」旨定め、高岡市立学校教職員の休暇については所属学校長の承認がなければ、休暇付与の効力を生じないことを明らかにしている。
したがつて、原告ら高岡市立学校職員は年休について所属学校長の承認を要するものと解する。このように解すると、前述した労働基準法三九条三項の解釈によるよりも、制限されたことになるけれども、義務教育を担当する教職員の職務の公共性、重要性、不代替性等に鑑みると、法律上許される制限であると考える。
但し、前記の年休制度の立法趣旨、年休請求権の法的性質に照すと、右にいう校長の承認権(不承認権)も無制限なものではなくおのずから制約が存するものというべきであつて、その制約を越えて校長が教職員の年休の請求を承認しなかつた場合は違法たるを免れないと解する。そこでその制約はいかなる場合かについて考えるに、客観的に事業の正常な運営が妨げられるような事由が存するような場合、すなわち、各学校毎に当該教職員の請求する時季に休暇を与えることによつて、児童、生徒に対する授業計画に回復しがたいかような遅れが生ずる場合、あるいは、児童、生徒を管理するに当り多大な支障を生ずることが予想される場合、その他学校業務の正常な運営が阻害されるような場合で、単に繁忙であることをもつてはこの場合に当らないと考えられる。
(3) そこで、本件原告らが、校長の承認を得ずに、組合大会に出席した昭和四四年一〇月八日に右のような事由が存したか否かにつき検討する。
<証拠>を総合るすると、次の事実が認められる。
(ア) 臨時組合大会の開催された昭和四四年一〇月八日には、富山県中学校体育連盟主催、富山県教委共催、富山県体育協会後援の富山県中学校総合選手権大会(以下中体連と略称する)が開催され、県下各中学校から多数の選手がこれに参加した。そのため、各中学校から選手付添いおよび大会役員として相当数の数諭が出張した。中体連への出張教諭数は、原告堀井の所属する南星中学校で教諭総数三七名中一六名(堀井も含まれる)、原告野村の所属する西部中学校で同三五名中一〇名、原告永井、同戸口の属する志貴野中学校で同四一名中一一名にものぼり、いずれの学校でも平常通り授業を行いうるような状態になかつた。
(イ) しかし中体連の開催は、昭和四四年初めには実施日も確定し、年間計画におりこまれていたので、当日の授業内容については、それぞれ教諭の不足を補いうるような態勢が考慮されていた。すなわち、南星中学校では、一年生では1.2時限映画、3.4時限スケッチ、五時限学級活動、六時限大掃除という日程、二年生では1.2時限課題学習、三、四時限映画、五時限フォークダンス、六時限大掃除という日程、三年生では一ないし四時限映画および課題学習、五時限学級活動、六時限大掃除という日程がそれぞれ組まれ、また西部中学校では一、二、三年生とも高岡市古城公園において写生大会が行われ、更に志貴野中学校では中体連出場選手以外の全員でクロスカントリー・レースが行われるなど、三中学校とも多数の教諭の不在を補いうるような特別の日程が組まれていた。そして、いずれの学校とも残余生徒についての事故はなかつた。
なお、原告堀井は、南星中学校の野球部門出場選手の付添いとして県営野球場に赴いていたが、野球試合終了後、組合大会に出席し、また原告野村は西部中学校一年生の引卒者として写生会場へ出かけたが、生徒の現地解散時刻前である午後一時一五分頃、右写生会場を離れ、組合大会場へ向つた。
以上認定の事実に反し、他に学校業務の正常な運営が妨げられたことを認めるに足る証拠はない。
右事実によれば、昭和四四年一〇月八日、原告ら所属の三中学校とも、教諭総数の三分の一前後の教諭が在校していず、正常な授業をなしうる状態にはなかつたが、このことはかなり以前から判明していたことであつたので、いずれの学校でも多数教諭の不在を補いうるような授業計画を立てられていたことが認められ、客観的にみて、当日原告らの年休を承認したとしても、生徒に対する授業計画に回復しがたい遅れをもたらしたり、生徒管理上、多大の支障を生じたり、あるいは、その他学校業務の正常な運営を妨げるような事由があつたとは認めがたい。したがつて、当日、多数の教諭が出張するというのみでは年休を承認しない理由とはならないというべきである。
(4) 以上の次第であるから、原告ら所属の各中学校長が、原告らの年休の請求を不承認としたのは、その余の判断をするまでもなく承認権を越えたものであつて違法たるを免れないと考える。したがつて、各学校長において、違法に原告らの年休請求を不承認とした以上、原告らが不承認のまま休暇をとつたとしても、これをもつて書面訓告の理由とすべきではなく、これを理由とする書面訓告もまた裁量権の濫用であり違法即無効たるのそしりを免れない。
3 そこで、右書面訓告を理由に勤勉手当の成績率一〇〇分の五五を適用することは違法であるとの主張について検討する。
(1) 被告は、右成績率適用の根拠は書面訓告の存在ではなく、書面訓告の原因たるべき原告らの義務違反行為にあると主張するけれども<証拠>によると、次の事実が認められる。
県教委は昭和四四年一二月五日に支給される期末および勤務手当の支給基準について、同年一一月一〇日管内各教育事務所あて通知した。しかし、その際、勤勉手当の成績率については(ア)良好な成績で勤務した場合、(イ)書面訓告を受けた場合、(ウ)戒告を受けた場合、(エ)減給を受けた場合、(オ)停職を受けた場合の五段階の評価をすることを定めたのみで、支給率については、未だ決定されておらず、決定次第連絡する旨通知され、一一月一五日に至つて、右成績率を順次(ア)一〇〇分の六一、(イ)一〇〇分の五五、(ウ)一〇〇分の五〇、(エ)一〇〇分の四五、(オ)一〇〇分の四〇とする旨決定したとの通知がされた。これを受けた高岡教育事務所長は、同月二一日管内小中学校長あて、右成績率に基づいて勤勉手当の算出をすべきことを連絡した。そこで、右指示に基づいて各学校では、各教諭毎の勤勉手当額について計算し、各学校長の決裁を経て、その明細書を高岡教育事務所長に提出し、同所長は各明細書に基づき同年一二月三日支出負担行為および支出の決議をし、これを決裁した。ところで、前記成績率について、ほとんどの教諭に対して(ア)一〇〇分の六一という支給率が適用されたにもかかわらず、南星、西部、志貴野三中学校では、原告ら四名だけに右支給率が適用されず、(イ)一〇〇分の五五の割合が適用されたが、原告ら四名と同様校長の承認なく休暇をとつて組合大会に出席した他の一名については書面訓告もなされず、勤勉手当の成績率(イ)適用の措置もとられなかつた。
以上の事実に反する証拠はない。
右事実によれば、本件勤勉手当についても、県教委の定めた基準に従つて、各学校で勤勉手当額を算出し、これを高岡教育事務所長の決裁に付し、その決裁を経たことが認められるけれども、他に原告らにつき書面訓告の原因たる職務上の義務違反行為を認めるべき証拠のない本件においては、勤勉手当の成績率評価に際して書面訓告、懲戒処分等外形的事実の存在のみを唯一の基準としたものと考えざるを得ない。
してみると、本件勤勉手当の支給に際しては正に書面訓告を受けたというその事実が(イ)の成績率一〇〇分の五五適用の根拠となつたものと認めざるを得ない。
(2) そうすると、前認定のとおり、書面訓告が違法である以上、それをもつて(イ)の低い成績率適用の根拠とすることはできない筈のものである。
(三) そこで、原告らにおいて、当然に(ア)一〇〇分の六一なる成績率を適用して算出された勤勉手当額を請求することができるか否かについて判断する。
そもそも勤勉手当は給料表により金額の確定している給料とは異なるので、任命権者である県教委(その出先機関の長である高岡教育事務所長)が昭和四四年一二月五日支給される勤勉手当に関し、原告らの成績率を評価するに当り、前記書面訓告を前提として一〇〇分の五五と決定したことが違法であつても、新たに原告らにつきその成績率を(ア)良好な成績で勤務した場合一〇〇分の六一に該当すると評定しその支給額を具体的に決定しない以上、原告らは確定債権として右割合による勤勉手当請求権を取得し得ないものというべきである。
原告らは、県教委が勤勉手当につき一〇〇分の六一ないし一〇〇分の四〇の五段階の成績率を決定し、その旨課長、教育機関および出先機関の長、県立学校長へ通知し、これを受けた高岡教育事務所長が更に市内小中学校長に通知し、給与規則三三条により人事委員会に対し右成績率を定めた旨報告をした同年一一月一七日、または同年一二月一日(在職基準日)には、遅くとも原告らの債権が確定し、原告ら主張の金額の勤勉手当請求権をそれぞれ取得している旨主張するけれども、右成績率の決定、通知および報告は、各人毎の成績査定を便宜容易ならしめるためにした行政庁の内部的行為にとどまり、最終的には任命権者が当該職員につき右五段階の成績率のうちいずれに該当するかを具体的に決定し、その支給額を算定しない以上、未だ当該職員は確定債権としてこれを取得し得ないものといわねばならない(裁判所が行政庁に代つて右のような決定をすることは許されない)。
したがつて、原告らに対し、本件勤勉手当の成績率一〇〇分の六一に該当する旨原告ら主張金額の支給決定が具体的にあつたことにつき、何らの主張立証のない以上、右割合による勤勉手当支給額と既払額との差額の支払を求める本訴請求は理由がない。
第三、結び
以上説示の次第で、本訴請求は結局理由がないからこれを棄却すべきものとし、民訴法八九条、九三条に従い主文のとおり判決する。
(土田勇 大橋英夫 佐野久美子)